赤い狼 伍





「………?」


「え、稚春嬢ちゃんどうしました?」


「………や、なんでもない。」



言いながら眉をひそめる。

おかしいな、確かに感じたのに。



「稚春嬢ちゃん。」


「あ、うん、何?」


「稚春嬢ちゃん今日は疲れているっぽいですし、ここは俺に任せて部屋に戻っていていいですよ。」


「へぇー、そうなんだ。……って、え?」


「……俺の話聞いてください、ちゃんと。」


「あ、あはは…。」



さっきのことが気になって聞いてなかった。


取り敢えず笑って誤魔化そうとしたけどよく聞いていなかったことがみどりにはバッチリ分かっていたみたいで「俺のこと、笑って誤魔化せると思ってます?」と真顔で問われたので上げていた口角をすぐさま元に戻した。みどりの真顔は怖い。



「だからですね、ここは俺に任せて稚春嬢ちゃんは部屋でゆっくりしててくださいって言ったんです。今度はちゃんと聞いてました?」


「あ、はい、聞きました。」


「では、どうぞ。」



私の返事を聞くや否や、閉ざされていた襖を開けて軽く微笑むみどり。


そんなみどりに「えっ?」と呟くと「組長と真理子さんにバレない内に早く行った方がいいです。」と優しく微笑まれた。



なんだか、今日のみどりはいつもより優しい。

その要因を考えてすぐに頭に浮かんできたのは今朝の出来事。私が怖い夢をみたからだ。



…そういえばみどりは取り乱した私を見たその一日は必ずいつもより優しかった。その日一日はどんなワガママも聞いてくれていたっけ。



「早くしてくださーい。」



昔のことを思い出して、昔と変わらぬみどりの優しさに笑みが溢れる。




「……みどり。」


「はい、なんですか?」


「ありがと……。」


「………。どういたしまして。」




男のくせにお喋りだけど、空気読めないけど、煩いけど、みどりは優しいのだ。




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