とっておきのSS
結衣は自分の前にあるショートケーキに集中する。
ふわふわのスポンジと、甘さ控えめながらたっぷりの生クリームが絡まった、甘酸っぱいイチゴを堪能してフォークを置いた。
一旦、お茶でのどを潤して、メインイベントに着手する。
再びフォークを握った手がその場で止まった。
最後の楽しみに取っておいた大粒のイチゴが、皿の上から忽然と消えている。
犯人は一人しかいない。
結衣は隣のロイドを睨んだ。
「どうして、ひとの物まで食べるのよ!」
「なんだ、食うつもりだったのか?」
全く悪びれた様子もなく、ロイドは口をモゴモゴさせている。
今まさに、口の中にあるのはあの大粒イチゴなのだろう。
ロイドの前の皿は空になっている。
いつもながら見事な食べっぷりに、半ばげんなりする。