とっておきのSS


「ウソじゃない。こんなに甘いじゃないか」
「……え……」


 眼鏡を外したロイドは、結衣のあごに手を添えて顔を上向かせた。
 濃い緑の瞳が妖しい光を湛えて、結衣を真っ直ぐに見つめる。
 顔が近づいてきた。


「イチゴの風味だけ返してやる」


 目の前で囁かれ、結衣は黙って目を閉じる。
 甘いのはロイドのキスだと思う。

 ローザンが戻ってきたらどうしよう。
 そんな事を頭の隅で考えたものの、ロイドのキスには抗えない。

 重なった唇から、口中に微かに広がる甘酸っぱい風味。
 甘いキスに酔いしれて、苛立ちもどこへやら消し飛んでしまったようだ。

< 4 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop