とっておきのSS


 胸元でゴソゴソと何かが動いている気配を感じて、結衣は目覚めた。目の前に蜂蜜色の髪を認めて、ムッとしながら身体を起こす。


「ちょっと! なにやってるの?!」


 てっきりロイドだと思い込んで叫んだ途端に、相手がやけに小さい事に気付いた。
 驚いたように結衣を見上げた濃い緑の瞳に見る見る涙が滲む。外国人の子供?

 色々と気になる事はあるが、ベッドの上に座って、今にも泣き出しそうな子供をとりあえずなだめるのが先決だ。


「ごめんね。間違っちゃったの。あなたを怒ってるわけじゃないのよ」


 言葉が通じているのかはわからないが、雰囲気でわかってもらえる事を祈りつつ、笑顔で子供の頭を撫でる。すると途端に子供の表情が和らいだ。

 ブルーのTシャツに膝丈の半ズボン。少しくせのある蜂蜜色の髪は無造作に短くカットされている。どうやら男の子のようだ。

 結衣自身も、親類縁者、友人知人にも見渡す限り外国人に縁のある人はいない。
 玄関も窓も鍵がかかっているのに、どうやって入ってきたのか、どうしてここにいるのか気になる。

 英語なら通じるだろうか?
 発音も文法も怪しいかもしれないが、とりあえず笑顔で話しかけてみた。


「Where are you from?(どこから来たの?)」


 ところが男の子は、キョトンと首を傾げて不思議そうに結衣を見つめる。

 発音がまずかったのか、或いは英語じゃなくてフランス語やドイツ語やもっと馴染みのない言葉でなければ通じないのか。

 結衣が笑顔を引きつらせていると、男の子が口を開いた。


「パパは?」
「へ?」
「パパはどこ?」
「なんだ、日本語わかるの」


 意思の疎通が図れる事にホッとしたものの、この子が何を言っているのかはよくわからない。父親とはぐれてしまったらしい事はわかるが。

< 7 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop