とっておきのSS


 とりあえず、どこから来たのか不明のままでは、父親の元に帰す事もできない。
 結衣はもう一度尋ねた。


「パパはここにはいないわ。あなたはどこから来たの?」
「ラフルール」
「え? クランベールから来たの?!」


 密室に忽然と現れたわけはわかったが、どうやって来たのかはやはりわからない。
 遺跡の活動期は三十年後のはずだ。ロイドのマシンを勝手に操って来たとか?
 という事は、王宮に勤めている誰かの子供なのだろうか。

 何にせよロイドが来れば、その辺の事情もわかるだろう。この子を父親の元に届ける事もできる。結衣は男の子をひざの上にのせた。


「もうすぐお兄さんが迎えに来るから、そしたらパパの所に連れて行ってあげるね。あなたのお名前は?」
「ロイド」
「えぇ?!」


 なんという偶然。ロイドという名前は、クランベールではよくある名前なのだろうか。

 結衣が言葉を失っていると、小さなロイドが結衣の腕をポンポンと叩いた。


「ねぇ、お兄さん」
「お兄さん? それって私の事?」
「うん」


 邪気のない瞳を見つめながら、思わず顔が引きつる。
 約一ヶ月くらい王子のフリをしていた事は認めるが、日本で男に間違われた事はない。

 そもそも王子は男の子だけど、顔は母親似で体つきもまだ少年体型だったから、女の結衣でもなんとかごまかせたのだと思っている。

 相手はまだ小さい子供だ。お兄さんとお姉さんを言い間違えているだけに違いない。そう自分に言い聞かせて、笑顔で訂正した。


「お兄さんじゃなくて、お姉さんよ」
「だって、おっぱいない」
「うるさーい」


 また泣きそうになっては困るので、笑顔で言い返したものの、小さい胸がさらにえぐられたような気がする。子供は辛辣だ。

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