私とテニスとあいつらと
恐る恐る振り向くと、私の願いも虚しく、そこには頬に砂や砂利がついた男が立っていた。多分頬にスニーカーの底の部分が当たったのだろう。男は動かない。その場に立ち尽くしている。まだ動かない。それはもう、もとからその場にある置物と言えば納得できる位に。
少しの間、私も固まっていたが、我に帰りその男のブレザーの名前の部分を何気なく見てみると、なんとそこには「幸田」の文字が。

「あ、蘭の言ってた人」

そしてもう一回幸田に目をやると、少し震えていた。

・・・・・・・・・・やばい。

これは非常にやばい。今この時点で人が震えてしまう感情を言えば喜怒哀楽のうち「喜」、「怒」、「哀」の3つしかない。しかしこの状況で「喜」を選ぶ人はいるにはいるが少ないだろう。そして消去法でいくと「怒」と「哀」。しかし、「哀」ならもう既に泣いているんではないか?普段使わない頭をフル回転させてたどり着いた答えは「怒」。もうこれしかない。そう考えると今の私はすんげーやばい。

ここは謝った方がいいのか?と考えたが、蘭にかかわるなと言われたし、本日2回目の私の勘が逃げろ、と告げている。

私は、その勘に従い、後ろを向いて左足だけスニーカーを履き、靴をぶつけてしまった本人がこちらを見る前に陸上の選手になれるんではないかと思わせるくらいの瞬発力で玄関を飛び出した。

簡単に言うと、私はその場から逃げ出したのである。

「てっめぇぇぇ!今朝も会った女だろ!!待てコラァ!!!!」

その瞬間、幸田はヤクザや暴力団よりも恐ろしい声で叫び私を追いかけてきた。
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