淡夢【短編集】
まるで闇が彼女だけを包まないようにしているかのように見えた。


月光をその肌に取り込んでいるようにすら思えるほど、白麗の肌だった。


でも……



夜空を見上げる顔は……



どこか悲しい瞳をしている。



その少女は僕に気付き、優しくほほ笑む。


「こんばんわ、キレイな人ね」


少女の声は透き通っていた。


僕は生まれて初めて冷静さを欠いたと思った。


これは僕の念が作り出した幻影か?


そんな問いを真面目に自分にしてしまった。


「あなた、ファイさんでしょ? 噂どおりキレイな人なんだね……」


少女は僕の方に歩いて来た。


「ねぇ、私、両親がいなくなっちゃってさ……なんとかっていう疫病にかかっちゃったんだって……。だから私、心の中ぐちゃぐちゃになっちゃったみたい……」


少女は悲しい瞳で僕を見つめてきた。


「あなたなら……私の心の中を……キレイにしてくれるかな?」


僕はそのとき……


全ての偶然は必然のもとに成り立つという、だれかの言葉を信じることにした。


「自分で言うのもなんだけど、僕はこの国で一番のキレイ好きらしい。頼まれなくても、キミの心を綺麗にしてやりたくなったよ……」


「ふふっ…変な人……」



これが僕とサナの出会い。


この国は決して大きくはないが、夜しか出歩かない僕にとって、この出会いはまさに奇跡だった。


僕は……



広大な不毛の砂漠の中で……



一輪の大輪の華を見つけたような気分だった。



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