淡夢【短編集】
「着替えるから、少し外で待っててくれないか?」
「うん!」
サナは嬉しそうな顔のまま、外に出て行った。
「さて……着替えるか……」
ベットから立ち上がった僕は、着替えとコートを取り出した。
僕の純粋を象徴する純白のロングコート……
と、人は言う。
昼間に着るのは久し振りだ。
この国随一のキレイ好きと呼ばれる僕でも、この世で一番美しいものは何かわからない。
しかし、誰かが、不完全な恋は、この世で最も美しいという言葉を言ったと聞いたことがある。
確かに不完全なものは、美しい。
美しいと有名な彫像に、両手が欠けているものがある。
その像は両手がないからこそ、価値があり、永遠の美を手に入れた。
そのような彫像があるくらいだ、その言葉はあながち間違ってはいないだろう。
しかし……
その言葉が正しいというのなら。
僕は、この世で最も美しいという恋はできそうにないな。
なぜなら―――
ギィィ……
ドアが静かに開いた。
「ファイ? まだぁ? ってなんだ、もう着替え終ってるじゃん。やっぱり、その真っ白のコートが似合うね♪」
サナ……最近、キミのその笑顔は日差しよりも眩しく思える。
僕はほほ笑んだ。
「キミとの恋が……不完全であるはずがないな」
「え? なにか言った?」
「いや、なんでもないよ。行こうか……」
「うん!」
僕たちは外に出た。
太陽は、思ったより眩しくないな。
僕のに比べると……だけどね。