淡夢【短編集】
抱き締めた君の上着のポケットに、さり気なく四つ折りの紙を忍ばせた。


もし別れの言葉を言えなかったときのためにと……


僕の想いを託した紙……


ここなら、君が何気なくポケットに手を入れたときに気付いてくれるだろう……



線路の向こうに電車が見えてきた……



君は振り向くことなく、その一歩を歩いた。



そして僕の方を見て……




まるで恋愛系の映画を見て、号泣する人のように涙を流すのかと思ったのに……




君は……




まるでつららから滴るの水滴のように……




一粒だけ涙を流した……




でも……




その一粒の涙が、どんな涙よりも重いものだと分かり……




僕も……




つららのそれのように……




一粒だけ涙を零した……


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