令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~
喫茶店の壁に掛かった時計を見たら、そろそろ行かないとバイトに遅れそうな時刻だった。

少しぐらい遅れてもいいかな、と一瞬思ったが、店長の顔を思い浮かべ、それはマズイと思い直した。このところ、俺は店長からあまり良く思われていない。遅刻しようものなら、客がいようがその場で怒鳴られ、恥をかかされかねない。

というわけで、


「俺、そろそろ行かないと……」


と、弘司に聞こえるように言った。すると俺の事情をよく知る弘司は、


「ああ、そうだよな? またな?」


と言い、俺は「おお」と返して立ち上がった。


すると、吉田栞が俺を見上げた。何やら物言いたげで、悲しそうな顔に見えるのは俺の気のせいだろうか……

おっと、このまま帰ったら意味ねえよな。吉田栞から嫌われてないと分かった事は収穫ではあるが、それだけでは不十分だ。携帯の番号を聞き出せれば御の字なんだがな。いっちょう、聞いてみるか?


今は迷ってる暇はない。一か八か、当たって砕けろだ。


「吉田さん……」

「は、はい」

「携帯の番号、教えてくれないかな?」

< 128 / 548 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop