令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~
悠馬さんと待ち合わせた駅には、約束した時刻よりかなり前に着いてしまった。当然ながら悠馬さんはまだ来てないので、私は壁を背に立ち、彼を待った。


“彼を待つ”かあ。いい響きだわ。私、前からこれをしてみたかったのよね……

厳密には、暮れに悠馬さんが家に見えた時、やはり駅で彼を待ったのだけど、あの時はデートの待ち合わせではなかったから、今日とは全然意味合いが違うと思う。


行き交う大勢の人に目を凝らしていたら、人より頭一つぐらい背の高い、スマートで精悍な感じの男性がこちらに向かって颯爽と歩いて来るのが見えた。その素敵な男性こそ、見まごう事なく私が待つ彼、つまり悠馬さんだ。


「やあ、待たせちゃったかな?」


そう言って少しはにかむように微笑んだ悠馬さんは、本当に素敵だなと思った。


「いいえ、それ程でもありせん」


私も微笑みながらそう応えた。実際、まだ約束の時刻になってないから、さほど長くは待ってなかったし、悠馬さんも約束より早く来てくれた事が、私はとても嬉しかった。


「行こうか?」

「はい」


悠馬さんは遠慮がちに手を差し出し、私はその大きな手をしっかりと握った。悠馬さんと手を握るのは、ずいぶん久しぶりな気がする。


今日は小春日和の良いお天気で、きっと楽しい一日になるだろうなと私は思った。その時は……

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