令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~
「私、パンダって“生”では見たことないんです」

「そうなのか?」

「はい。子どもの時に家族で見に行くはずだったんだけど、急に私が熱を出しちゃって、結局は行かず終いなんです。悠馬さんは?」

「俺か? 俺は……あるよ。ずっと昔、まだおやじさんが生きていた頃だけどな」


そう言うと、悠馬さんは遠い目をして唇をギュッと結んだ。

しまった……。私ったら、悠馬さんに亡くなったお父様を思い出させてしまったんだわ。


「ごめんなさい……」

「ん? どうした?」

「私ったら、余計な事を言って悠馬さんにお父様の事を……」

「なんだ、そんな事か。おまえが気にする事ないって」

「でも……」

「俺、おやじさんの事は吹っ切れたんだ。誰かのせいにしたり、恨んだりもね」


私は悠馬さんの言う事がよく分からず、ポカンとしてしまった。


「栞って、優しい子だよな?」


そう言って、悠馬さんは私の頭をそっと撫でた。私は突然の事に、顔がカーッと熱くなるのを覚えた。


「さあ、行くぞ?」

「あ、はい……」


悠馬さんは、一瞬だけどまた哀しそうな顔をした。今度は見間違いなどではなく……

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