令嬢と不良 ~天然お嬢様の危険な恋~
「吉田? ああ、栞ちゃんね。吉田グループのご令嬢の」


突っ込まれなかったか……。それにしても、何が“栞ちゃん”だよ!
俺は弘司の馴れ馴れしい言い方にちょっとムカついた。なぜかは知らないが。


「なんで彼女を? おまえ、ひょっとしてあの子が気に入ったのか? しっかり下の名前も覚えてるしな」


う、やはり気付いてやがったか。


「べ、別にそんなんじゃねえよ。ただ、ちょっと変わった女だからもう1回見てみたいかな、っつうか……」

「隠すな、隠すな。そうか、おまえもやっと彼女を作る気になったか。いい傾向だよ」


弘司はニタニタ笑ってそう言った。奴にも杏里さんの事は話してないから、俺に彼女はいない事になっている。もっとも、杏里さんが俺の彼女かと言えば、それはちょっと微妙な気もするのだが。


「そんなんじゃねえって言ってんだろうが……」

「まあいいさ。よし、分かった。じゃあおまえも一緒だと伝えておくよ」

「いや、それはやめてくれ」

「なんで?」

「そ、それは……俺はあの子に嫌われてるからさ」


そう。俺は吉田栞にめいっぱい嫌われてるはずだ。
怒って、泣いて、走り去った彼女の後ろ姿を俺は思い浮かべた。

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