美容師男子×美麗女子


千尋が「は?」と振り向いた。

「どこか怪我してるのか?」

「い、いや、別に」


痛む下半身を無視して、あたしは立ち上がった。

千尋は不服そうな顔をする。


「こっち」


千尋の部屋から出て、千尋はすたすたと廊下を歩いて行く。


「1階なの?」

「あぁ、店とつながってる」


階段を下りて、千尋はドアを開ける。

こうやってお店に行けるんだ、と少し感動した。


「風呂場にあるやつ、全部使っていいから。じゃあ」

「あ、ちょっ、」


脱衣所に押し込まれ、千尋は手を振りながらドアを閉めた。

よろめきながら、壁に背中をつけた。

ひんやりとした温度が頭を冷やしてくれるみたいで、気持ちいい。


何が起こったのか、何でこうなったのかが分からなくなってきた。

ドレスのままの姿を千尋に見られてしまったし、家に帰ろうと思っていたのに、なぜか千尋の家の風呂場にいるし。

これは、一体どうすれば?


ぽかんとしながら、あたしはとにかくネックレスを外す。

髪をまとめていたものを全てとって、ドレスをかけた。


あぁ、最悪だ、こんなにキスマークをつけられてしまった。

春樹くんにもつけられたことないのに。


映った自分の姿を鏡で見ながら、あたしはそう思った。


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