美容師男子×美麗女子
「千尋、ありがとう」
千尋の部屋に入って、あたしはとりあえず頭を下げた。
ドレスを持って、千尋のスウェットを着て、することもなく立ちすくむ。
「あぁ、別にいいよ」
千尋は珍しく携帯を触っていて、あたしのことをちらりと見ると、「座ったら?」と言った。
千尋のスウェットは大きすぎたけど、逆に安心感がある。
「嘘、つく?」
千尋は立ち上がった。
まっすぐあたしを見据えて、あたしの正面に座る。
「俺の質問に、答えて」
眠たそうな目が、あたしの顔を覗き込んだ。
今なら、何でも言ってしまいそうで怖い。
「千咲、バイトでもしてるの?それ」
あたしが置いたドレスを指さす千尋。
あたしは少し考えて、口を開いた。
「うん、ああいう仕事やってるの。お金が必要だから」
初めて、言った。
初めてあたしが水商売をやっているということを、誰かに話した。
怖い、なんて言われるんだろう。
辞めろとか言うのかな、警察に行けとか言われるのかな。