美容師男子×美麗女子
恐る恐る千尋の顔を伺った。
千尋の表情は変わっていなかった。
「・・・・・知ってる」
「は?」
「前から、そんなんじゃないかってこと、思ってたから」
千尋はまっすぐあたしを見た。
「だって、この前公園で会っただろ?うちの店、そう言う客がいるから、なんとなく分かってたんだ。ただ、確証は無かった」
千尋はあたしの濡れたままの髪を手に取った。
「誰かに言うの?」
「言わない。だって俺の練習台が居なくなったら困る」
千尋は苦笑した。
練習台呼ばわりされた事は少しかちんと来たけど、千尋らしい答えだった。
「疲れてんな、何かあったのか?」
あたしの目の下をなぞって、千尋は言った。
クマでもできてるのかな。昨日は一睡もしてなかったから。
「・・・全て忘れて、全部全部忘れて、何も考えないで1つのことに溺れてたら、楽になると思ってたけど」
苦い、キスを思い出す。
そう、苦いんだ。
「楽にはならなかった」
枯れた声であたしはそう繋いだ。