美容師男子×美麗女子
「失恋は終わったんじゃなかったのか?」
千尋はあたしの髪を梳いている。
細くて白い指が、巻き付いた。
「忘れたかったけど、無理。だってこれから、毎日会うんだもん」
だから、あたしは遠い所に行きたい。
まだ、何も考えてないけど、とにかく春樹くんから遠ざかりたいんだ。
「千咲」
千尋の癖毛が顔にかかった。
長い睫毛が伏せて、熱い息が吐き出される。
千尋の唇が重なった。
柔らかくて、温かい。
苦くないって思いながら、あたしは目を閉じた。
「・・・・・・・千尋」
ゆっくりと千尋はあたしから離れる。
千尋が少し笑った気がした。
「もう、“はるきくん”なんて忘れちまえよ」
千尋は癖毛をくしゃくしゃして、子供みたいに笑った。
なんでか分からないけど、あたしはいきなり顔が熱くなった。
痛い喉も、下半身も忘れて千尋に抱きついた。
やっぱり筋肉のない体は、温かかった。