美容師男子×美麗女子
せっかく綺麗に整えた前髪を上げて、ピンでとめる。
千尋がメイク道具を持ってきて、あたしの目の前に並べた。
「ほんとうに上手になってるの」
「まぁ、それはお楽しみ」
千尋は髪の上半分を後ろで束ねて、黒いエプロンをしばりなおす。
彼なりの気合入れらしい。
「よし、じゃあはじめるか」
「・・・・変なのにしないでよ」
「しないしない」
千尋の温い指があたしの額を撫でる。
お店の椅子が新しくなったらしい。
前のは革がはがれてたところがあったから、新しく買い換えたみたい。
それで、余った椅子を千尋がもらった、と。
千尋のシンプルな部屋に、1つだけ本格的な、美容室で見る椅子が置かれている。
それはそれは不自然でおかしい。けど、千尋は気に入っているみたい。
確かにリアルな美容室っぽい雰囲気はできるし、高さも丁度いい。
この空間、ちょっと好きかも。
千尋がかがんで、あたしの顔を覗き込む。
ベースを塗っていく手つきも、なんだか手馴れている。
下地が終わって、千尋はリキッドを手にした。
「ここが俺の1番の踏ん張りどころ」
「へえ」
あたしは目を閉じた。
千尋は、あたしの右目の睫毛の生え際ぎりぎりに、真っ直ぐのラインを入れた。