美容師男子×美麗女子
「いいよ、目開いても」
「なんだったの?」
「なんでもない」
千尋は口紅をくるくる回して、芯をしまっていく。
相変わらず笑顔だった。
「うん、できた。ばっちりだ」
「鏡見せてよ」
「はい」
千尋があたしに手鏡を渡す。
あたしはそれを覗き込んだとき、思わず声をあげてしまった。
「わ、千尋・・・・・・」
シャドウは赤。目尻側にも赤が入っている。
口紅も赤。
つけまつ毛の目尻には猫目の赤色が入っていた。
一瞬、誰だか分からなかった。
いつもより大人っぽい。
「花魁か何かみたいだな」
「は、・・・・・・・」
あたしが、前に赤色が好きって言ったから?
そう聞こうと思って、やっぱりやめた。
「千咲は赤が似合うから」
「赤が?」
千尋は知ってか知らずか、悪びれもなく平然と言ってのけた。
綺麗だった。
自分が自分じゃないみたいな。
赤は嫌いだけど、こんなにもしっくりくる色だったなんて、知らなかった。