美容師男子×美麗女子
「千尋、ありがとう」
「お気に召した?」
「うん、満足」
上品に巻かれた黒髪と、目の黒。
シャドウと口紅の赤のコントラストがはっきりしていて、すごい綺麗。
問題だったラインもしっかり引けていて、やっぱり千尋の才能を感じた。
「なに、これ。あたしよりも上手い」
「色々研究したから」
メイク道具をしまっていく千尋は、ぬけぬけとそう言った。
やっぱり、才能なんだ。
「頑張ってこいよ」
千尋は髪をほどいて、あたしに笑った。
あたしは椅子から下りて、つい、千尋に抱きついてしまう。
太い首にしがみついて、ぶら下がる。
「頑張るよ」
「おー、重い」
「うるさい」
甘いのと、爽やかな整髪剤の匂いが千尋の匂い。
あたしはそれが嫌いじゃない。
そして、千尋の匂いが染み付いたこの部屋も嫌いじゃない。
現時点、お気に入りの場所かも。
「行ってらっしゃーい」
千尋はあくびしながらあたしに手を振る。
それに手を振りかえして、あたしは部屋を出た。