美容師男子×美麗女子


「昨日出たから、今日は休みをとったんだ。アヤカに会いたくて」

「本当に?じゃあ、もっと楽しもうね」


人懐っこい笑顔を浮かべたら、アキラは同じように笑った。


普段、女の子相手の仕事をしている人って、本当にいやなんだよなぁ。

上手に丸め込まれるし、誘い方は上手だし。

まだ新米のあたしに対応できる相手じゃないってことは、店長もみんなも分かっているはずなのに。

厄介ごとを押し付けられた気分だ。


あたし、最後まで笑っていられるだろうか。







23時が回った所だった。

サトルさんを見送って、ふうと一息ついたところだ。


「アヤカ、今日出張すんの?」

「え?」


カウンターで領収書を書いている受付の男があたしを呼び止めた。

“出張”とはこの店で言う業界用語、というか店内用語みたいなもので、“お持ち帰り”みたいなことを指すらしい。


「だって、ほら。駐車場にある外車って、アヤカの客だろ?」


あたしは急いで窓に張り付いた。

白のフェラーリ。アキラだ。


「うそ!聞いてない!」

「仕事終わるまで、待ってるんじゃないの?どっちにしろ今からアヤカ、斉藤さんのところ接待しに行かないと」

「う、うん、すぐ行く」


男は書き終えた領収書を持って、カウンターの中に消える。

あたしは窓の外をもう1回だけ見て、すぐに他のお客のところに向かった。


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