美容師男子×美麗女子
彰が友人らしき人に携帯を傾けようとした。
あたしの体は反射的に前に出ていた。
「あっ、ちょっと千咲?!」
後ろで友人の声がする。
彰がゆっくりと携帯を傾ける。
何でか、そんな動きがスローモーションに見えた。
「あ、きら」
あたしの腕は意外にも素早く伸びて、彼の左手を掴むことができた。
心臓がいつもの3倍過剰に動いている。
どうしよう。勢いでここまで来てしまった。
いきなり現れて、先輩の腕を掴むなんて事態、周りから見たら異常すぎる。
彰の友達もびっくりしたようにあたしを見ていた。
恋人のフリをして。
耳元で確かにそう聞こえた。
これから平和に生きていくには、もうそうするしか手段はないような、そんな感情というか本能がはたらいて、あたしは自分を疑うような行動をとったんだ。
「なんで携帯でないの」
あたしは掴んだ彰の手を、そのまま彰の顔の近くに差し出した。
「ほら、着信はいってるじゃん」
「あ、本当。ごめん」
一瞬で背筋が凍った。
恋人のフリを演じる彰の口元は、確かに笑ったんだ。
彰はあたしの肩に手を回して、一緒に居た友達に声をかける。