美容師男子×美麗女子
「え、切るの?」
甘い匂いがした。
鼻腔を擽る、優しくて甘い香り。どこかで嗅いだことのある香り。
「あんた、俺と一緒の学校だろ?1組の千咲さんだよな」
顔を上げた。
あたしより頭1個分高い身長のその人は、面白そうに笑っていた。
「なんであたしの名前・・・・・、」
「あんたが思っている以上に、あんたは有名人なんだよ」
口元に笑みを浮かべながら、その人はゆっくりあたしの髪に手をかけた。
細くて白い指だった。
真っ黒なカーディガンから覗く色が、白すぎてびっくりするくらい。
「どうせ髪切るなら、うちに来いよ。俺の責任でもあるし」
あたしの筆箱からハサミをとって、その人は人差し指で器用にくるりと回した。
「あんたの家?」
「そう。ここから近いから、すぐに着く。そんなに時間とらせないから」
“時間”と聞いて、あたしはすぐに反応した。
時間なら余るほどある。持て余したいくらいに、たくさん。
その人はもう1度器用にハサミを回してみせて、あたしの黒髪を豪快に切ってみせた。
それはもう、潔く。
はらりとアスファルトに髪が落ちた。
その人を眺めていると、気付かないうちに手をとられて、歩いていた。
白い手は、温かいわけでもなく、冷たいわけでもなく、ただぬるかった。