美容師男子×美麗女子
何を言いたいのかも、何をしたいのかも分からない。
人の注目が、野次が、こんなにあたしを狂わせるなんて思ってなかった。
「千咲?」
下駄箱の近くで女子に囲まれていた彰が、あたしを見つけた。
可愛い女の子に囲まれて、まんざらでもなさそうな顔をして、あたしに声をかける。
「やだ、彰やばーい。彼女に見つかっちゃったじゃん」
「早くなぐさめてあげたらー?」
彰と同じ学年の先輩が、あたしを馬鹿にするような目で見る。
一瞬で、その場から逃げ出したくなった。
「千咲ー?帰るの?」
「うるさい、来ないでよ」
あたしに近付く彰を追い払って、あたしは靴をはいた。
彰の香水の匂いがするたび、現実からかけ離れていく気がして怖かった。
「なんで怒ってるの?さっきの女の子は違うって、勝手に寄ってきただけ」
へらりと笑う彰を見ると、あたしの中の何かが崩れた気がした。
なにを我慢してたんだろう、あたしは。
元の要因はこいつだっていうのに。
あたしは気付いたら、平手で彰の右頬を思いっきりぶん殴っていた。
下駄箱が静かになった気がして、自分の右手が熱くなっていたことで我に返る。
彰は突っ立ったまま、何も言わなかった。