美容師男子×美麗女子


あたしはすぐに学校から出ようとした。

目の奥が熱くなって、喉から嗚咽が漏れそうになる。

あぁ、またやってしまった。あたしはこれで、学校中の嫌われ者だ。


「あれ、せんぱい、まだまだあいつのこと掴めてないみたいっすね」


はっとして振り向いた。

千尋の声だった。

女の子みたいに白い千尋が、細長い指で自分の右頬を皮肉っぽくつついてみせた。

彰の右頬はあたしの手形がついてて、真っ赤だった。

千尋からの嫌味を食らうと、彰は不機嫌そうに眉を寄せた。


靴を履き替える千尋を見て、目から熱いものが込み上げそうになった。


「ちひ、」


千尋の生温くて白い指が、あたしの目を片手で覆い隠す。

それから肩を抱かれるように、学校を出た。


爽やかで甘い匂いは、あたしの涙腺を崩壊させた。


「馬鹿、何泣いてんだよ」

「なんで千尋が居るの」


細い指をどけて、あたしは千尋を見上げた。

困ったように笑っている千尋は、苦笑する。


「千咲が、ただならぬ顔で廊下歩いてるの見えたから。なんかあっただろうなって」


溢れた涙を拭いて、あたしは笑って見せた。


< 153 / 210 >

この作品をシェア

pagetop