美容師男子×美麗女子


髪を結び終えて、鏡を見る。

毎回、千尋はプロ顔負けの技術を持ってるなぁ、と見せ付けられる。

細いゴム1本と、ヘアピン数本で千尋の作品は完成する。


「こっち向いて」


生温くて、細くて白い指が頬に触れた。

ぐい、とあたしの足元に膝をつく千尋の方を向かされる。


「千尋はさ、いちいち強引なんだよ。そんなんじゃ一生かかっても美容師になれないよ」

「うるさい」


あたしは嫌いじゃない。

千尋が膝をついて、変な体勢であたしをメイクするこの状況が。


「そんなに濃くしなくていいから」

「知ってる」

「知らないくせに、なに知ったかぶってんの」

「あーもう、口閉じとけよ」


ごちゃごちゃ喋るとメイクに支障が出るのか、千尋は顔をしかめた。

こういう失礼な所も千尋の改善点だ。


筆1本1本の使い方が手馴れていて、メイクされるほうも不快じゃない。

あんなに下手くそだったアイラインも、何度練習したのか知らないけど、上達してる。


「目、閉じて」

「また?」


頬に手が当てられて、唇に紅がひかれる。

いいよ、の声で目を開けて、千尋を見た。

千尋のこの笑顔は、いい作品ができた、のときの笑顔だ。


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