美容師男子×美麗女子
「母親が美容師やってんだけどさ、ガキの頃から母親見てたらなんか、覚えたんだよな」
そいつがあたしの髪をすくう。
ぬるい指が、櫛で器用に梳かしていった。
「あ、不安そうな顔してる。大丈夫だって、そんなに下手じゃないから」
「・・・・・してない」
そいつはあたしの許可もとってないのに、ピンで髪をとめていく。
その顔は自信に満ち溢れている顔だ。
変な気分だった。
今さっき会ったばかりの男に髪を触られて、普通に会話してるから。
「・・・・髪、あんまり短くしないで」
ゆっくり目を閉じながら、あたしは言った。
「分かってる。髪、伸ばしてんだろ」
「はぁ?なんで分かってるの?」
思わずあたしは振り向いた。「動くな」ってすぐに前を向かされた。
そいつは分かったように、口を開く。
「だって、全然ハサミ入れてないから。最後に髪切ったの、いつ?」
「・・・・・・・・忘れた」
そいつはあたしの髪をじっと見てから、すぐに離した。
見ただけで、切ったか切ってないかなんて分かるのか。
「最初見たときに気になったんだよな。毛先の長さが違うから」
「悪かったわね」
「別に、悪いとは言ってないけど」
そいつは気にした様子も見せないで、あたしの髪に霧吹きで水を吹きかけた。