美容師男子×美麗女子
「話がしたくて」
彰はにっこりと笑った。
周りに居た女子のほとんどが、うっとりとした様子で口元を押さえる。
だめだみんな。こんな化けの皮に騙されてたら、いつか痛い目みるのに。
3時間目の授業開始のチャイムが鳴った。
一瞬気になったけど、今はそれどころじゃない。
「行こうか」
彰に誘導されて、あたしは前に使ったことのある空き教室に入った。
ほこり臭くて、薄暗い、まさしく“使われていない”感が溢れている教室だ。
「で、何?」
さっきの顔とは違い、彰の顔には笑顔というものが消えていた。
一瞬、その気迫に呑まれそうになる。
そうか、彰は怒っているんだ。
無理もない。あたしは彰を殴ったりしたから。
あたしは彰を睨んで、口を開いた。
「もう、彰に振り回されるのは嫌なの」
拳を握り締めると、伸びた爪が手の平にささって痛かった。
でも、そうでもしないと緊張で怯みそうだったから。
「何?振り回されるって」
ロッカーにもたれこんで、彰はあたしを見下ろした。
「だから、付き合ってるとか、そう言うのは迷惑なの」
「俺が、千咲を振り回してるの?」
綺麗な目で、あたしをまっすぐ見る彰の視線を、つい逸らしてしまう。