美容師男子×美麗女子
鏡で自分の髪を見てみても、切る前と違いが分からない。自然だった。
違いが分からないくらいしか切ってないのに、頭がかなり軽くなった気がする。
「どう?気に入った?」
千尋は部屋の後ろのほうに置いてある、長いソファに座っている。
自信満々の顔であたしの顔を覗いていた。
「・・・・切ったのは分かったけど、そんなに違いがないから分かんない。とりあえず、千尋は下手じゃないってことは分かった」
髪を触ってみた。
気のせいかは知らないけど、指どおりが良くなった気がする。
「それ、褒め言葉になってないだろ」
「褒めたつもりはない」
ソファの上で足を組んでいる千尋の側に行った。
「あたしって、あたしが思う以上に有名なの?」
甘いベージュ色のカーディガンのポケットに、手を突っ込んだ。
右手に音楽プレーヤーの感触がある。
「千咲さんでしょ?俺、名前も知ってんだ」
「あたし、なんか学校で変なことした?目立たない風に過ごしてたつもりだったけど」
千尋は馴れ馴れしくあたしの髪を手にとった。
自分の気に入るように切れたのか、満足そうに笑う。
「べつに、千咲さんはなにもしてない。ただ、男子が勝手に騒いでるだけ」
千尋は結んだ髪をほどいて、エプロンを外した。
こいつからする甘い匂いは、この部屋にある整髪剤の匂いなんだ。そうぼんやり思いながら。