美容師男子×美麗女子
「俺の夢は、美容師。もちろんこの家を継ぐつもり。まぁ、とは言っても母親の許しがないとできないんだけど」
「美容師?」
どんどんと千尋の顔が近くなる。あたしが“美容師”と言う言葉を出した瞬間、千尋は熱弁しはじめた。
「もっと、練習しないといけないんだ!マネキンは髪伸びないし、プラスチックにメイクするのと肌にメイクするのとでは違うし、自然な関節がないネイルをしたって経験にならない。俺には、実践がたりないんだ」
「そ、そう」
ぐいと近付いてくる顔に、あたしは思わず後ろに下がった。
なんか、千尋のスイッチを押したみたい。
「だからさ、千咲さん。時間があるなら、俺に付き合ってくれ」
耳を疑ってしまった。
さっき会ったばかりのあたしに、そんな情熱的に頼みごとをするなんて。
「・・・・・・な、なにするの?その、手伝いとやらは」
「ちょっと髪の毛貸してくれたり、爪貸してくれたりしてくれれば全然オッケー」
「爪を貸す?!」
「ネイルするだけだって」
固く握られた手から、汗が伝わる。
よっぽど熱が入ってるんだろうなぁ、この人。
「頼む!」
頭を下げる千尋には、何も言えなくなってしまった。
「いや、いいけど・・・・・・」
「本当か?!ありがとう!」
こんなの、断れるわけないじゃん。
キラキラした千尋の目線をかわしながら、あたしは少し溜め息をついた。