美容師男子×美麗女子

□ほんとうのあたし






□ □ □



千尋の白くて細長い指が、あたしの髪を梳く。

頭を撫でられているみたいで、心地いい。寝てしまいそうだった。


コテで髪を挟んで、器用にくるくると巻いていく。

あっという間に巻き髪が完成していく。


あんたは甘い。

あんたがあたしを触る手は、誰よりも甘い。


床に膝をついて、あたしの爪に装飾を施す。

強引に顎に手をやって、アイラインを引く癖は変わってない。


誰よりも優しく、誰よりも丁寧に。

まるで飴細工を扱うように、そっと優しく。


上を向かされた。

千尋と目が合う。


「キスしてるの、ばれた?」
「…え?」

筆でルージュの色をとって、手の甲で量を調節する。

その仕草は男に見えなくて、女のあたしでさえ見惚れてしまうくらい、妖艶だ。


「なんのこと?」
「あ、ばれてなかったんだ。よかった」

あたしが喋らないように、千尋は自分の唇の前に人差し指を1本置く。
子供扱いされたみたいで、気に食わなかった。

ルージュが乗った筆が、あたしの唇の上を撫でる。


「いつもさ、口紅塗るとき、目閉じてもらってたでしょ」
「…あ」

あたしは今までのことを思い返してみた。

たしかに、いつも口紅を塗られるときだけは、目を閉じていた。


千尋は筆を置く。


「…いつもキスしてたんだ」
「そう、正解」

子供っぽく笑って、そいつはあたしに口付けた。

すぐに離れて、また笑う。

千尋の唇が若干色付いていた。


「はい、完成」

千尋はあたしに手を差し出した。

その手を掴んで、あたしは椅子から立ち上がる。


そいつの首に抱きついて、もう1度あたしからキスをした。

「足りないでしょ?」
「帰ったらもっとすごいことしてもらうって。遅れるぞ」

千尋は苦笑しながら、上着をあたしにかける。

「ねえ千尋」

「なに」

「だいすき」

「…知ってる」


セットしたばかりのあたしの髪を、ぐしゃりと撫でる千尋。

あたしは思わず笑った。


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