美容師男子×美麗女子
お昼休憩のことだった。
「ねぇ、千咲!千尋くんがあそこで呼んでるよー!」
いつも一緒にお昼を食べてる友人が、席を立ったと思えばすぐに戻ってきた。
顔は嬉しそうだ。
「・・・・・千尋ぉ?」
あたしは食べかけのパンを袋にしまって、教室の扉の向こうを見た。
ちらちらとクラス中の女子の視線があたしにささった。
「ねぇ、あんたいつの間に千尋くんと仲良くなったのよ!」
「親しげな感じだったわよねー」
一緒にお昼ご飯を食べてるだけの友人が、身を乗り出してあたしの顔をうかがう。
「え、何?千尋ってそんなに人気あるの?」
廊下でそいつは待っていた。壁に気だるそうにもたれかかりながら、あたしをちらりと見て、視線を外す。
「何言ってんの、超人気だって。黒の貴公子ってみんなで呼んでんの」
あたしは思わず飲みかけたジュースを吹き出しそうになってしまった。
貴公子って。あいつは美容師だっての。
千尋があたしに手を振った。かなり控えめに。
自分から来たくせに、照れてるのかな。
「じゃあ、ちょっとごめん」
あたしはべっとりとした視線を振り払うみたいに、勢いよく立ち上がった。
すぐに女子の視線はなくなる。
こういうの、鬱陶しいって言うんだよね。