美容師男子×美麗女子
あたしは教室から出て、廊下に立っている“黒の貴公子”に声を掛けた。
「どうしたの、千尋」
千尋は壁に寄りかかるのをやめて、あたしと向き合う。
「いや、いいのか?友達は」
千尋は教室の中で弁当を食べている、さっき話していた友人を指差す。
自分から呼んどいて、そっちを気にするのか。
「ああ、あれ?だって、お昼一緒に食べるだけの友達だし」
「お前、冷めてるなー。友達は大事にしろよ」
説教じみた千尋を睨んで、今度はあたしが壁にもたれかかる。
冷たい。すぐに離れた。
「で、なに?」
「今日、時間あったら俺のとこ来い。新しいベース、入ったから」
千尋はさっきの顔とはがらりと変わって、子供みたいな顔であたしを見た。
あぁ、こいつの“美容師”の顔だ。
「ベース?ベースってなんの?」
「あぁ、ネイルのほう。一色だけでも綺麗な色、入ったんだ。試しにって思って」
今日は、月曜日。
うん、仕事は入れてないはず。
「いいよ。一緒に帰ろう」
「あぁ、じゃあまた」
千尋はすぐにあたしに背を向けて、隣のクラスに消えていった。
なんだ、案外あっさりしてるんだ。
あたしはそんな後姿を眺めながら、自分も教室に入った。