美容師男子×美麗女子


千尋がドアを押して、あたしを誘導するように中に入った。

シャンプーと整髪料の爽やかな匂いが鼻腔をくすぐる。

千尋の匂い。毎日こんなところにいるから、あいつもこんな匂いになるんだろう。


「座って」


今日はこの間と違って、背が高い椅子でなくソファに座らされた。

そして相変わらず千尋は髪をしばって、あたしを置き去りにどこかへ行ってしまった。


どうやら2階に上がるみたいだ。2階が千尋の家みたいなものなのかな。


「お待たせ」


数分待ったところで、千尋は手に箱を持ってやってきた。


「何?それ」


箱を覗き込むと、色んなメーカーのマニキュアがぎっしりと並んでいた。

多少雑な扱いだ。まぁ、千尋らしい。


「ポリッシュ。これは、全部ベースだけど」


アート用のは別にある、って千尋は楽しそうにそう言った。

箱を漁って、千尋は1本のマニキュアを取り出した。

真四角のビンに入った、深い青色のマニキュア。


「これ、綺麗だろ。遠出したときに、店で見つけた」


千尋は自慢するかのように、あたしにそのマニキュアを渡す。

光にかざしてみると、小さな粒子がきらきら光ってる。だけど、くどいラメではないって感じ。


「うん、普通に綺麗」

「普通にって、お前冷めてるな」


それ、今日で2回目。あたしはわざとそれを無視して、マニキュアを千尋に返した。



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