美容師男子×美麗女子


「この色だけまだプラスチックにも塗ってねぇんだよな。はい、手貸せ」


千尋はマニキュアを振りながら、あたしに手を要求した。

あたしは黙って右手を千尋に差し出す。

千尋は強引にあたしの手を引っ張って、自分の膝に乗せた。

ビンからハケをそーっと出して、丁寧にビンの口でしごく。


千尋があたしの手を取って、人差し指を押さえるようにして、持つ。

光に反射する深い青色のハケが、あたしの爪に乗って、薄く色を伸ばした。


「・・・・・・・案外色が薄い」

「重ねるんだよ、これから」


ピンで留めてある千尋の癖毛が揺れた。

片手で器用にあたしの指とビンを持って、もう1回同じ事をくりかえす。

色が全然違った。さっきは薄い青だな、って思ってたけど、もう1回重ねただけで、色の印象ががらっと変わった。


「うーん、もう1回だな」


慣れた手つきであたしの爪に色を落す。

人間に塗るのは初めてだ、って言ってたけど、とてもそうは思えない自然さ。

こいつ、絶対にあたし以外の誰かで練習してるだろ、ってくらい。


視線を落とす。背を丸めている千尋が、いつもより小さい。

伏せている睫毛が、意外に長くて。


「はい、終わり」


目だけをあたしに向けて、少し笑った。ような気がした。


「その上目遣い、やめろ」


あたしは顔を十分にしかめて言ってやった。


「はぁ?一瞬だろ」


ぱっと千尋が手を離して、背筋を伸ばす。

あたしは自分の爪に視線を落した。



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