美容師男子×美麗女子
最近、あたしはおかしい。
大嫌いだった春樹くんに惹かれるようになったのも、大好きなお姉ちゃんが嫌いになったのも、考えられない。
なんで、こんなに渇くんだろう。
痛くて、辛い。
あたしは、春樹くんに恋をしちゃったんだ。
あたしはジャケットに腕を通して、ポケットに突っ込んだままだった音楽プレイヤーを取り出した。
いらいらしたときにジャズを聴く、あたしの習慣みたいなもの。
ベッドに座り込んで、耳だけに作られた世界に、耳を傾ける。
音楽は、いい。何も考えなくて済むし、嫌な事が全部忘れられる。
自由気ままに伸びゆくテンポのサックスみたいに、耳をつんざいて強烈な音を残すトランペットみたいに、鍵盤を飛び跳ねるようなピアノみたいに、いつも同じリズムを刻んで、時々衝撃を与えるドラムみたいに、
あたしもなりたいんだ。
時々、思う。
誰かにあたしの強烈な音を残したい。
誰かにあたしのテンポを聞いてもらいたい。
誰かにあたしの飛び跳ねる音を見てもらいたい。
誰かにあたしの衝撃とリズムのビートを感じてもらいたい。
ジャーン、って各楽器が最後をしめるような音を出して、曲は終わった。
耳からイヤホンを取り出して、プレイヤーの電源を切る。
あたしはベッドから立ち上がって、部屋を出た。
こうやって、独り善がりしたって、誰も気付いてくれない。
むしろ、誰も気付かなくてもいい。
春樹くんが好きだってことも、誰も気付かないで、あたしの想いが自然消滅すればいい。
誰かにこんな、助けを請うような醜くて恥ずかしい醜態を晒すなら、一生嘘を付き続けて生きていく方がましだ。
あたしはそう思う。