美容師男子×美麗女子
「まぁ、あたしのことはいいの!だって、今日はサトルさんが会いに来てくれたんだもん!せっかくだから、サトルさんといっぱいお喋りしたいの」
「まったく・・・・、自分を大事にしなくちゃ駄目だぞ?」
サトルさんがあたしの肩に腕を回す。
滑らかで上質なシルクのスーツが素肌にあたって気持ちいい。
仕事をしていると、自分の考えている悩みや妬みが全部捨てられるような気分になる。
全部捨て去れて、全部忘れられる。
だから、仕事をしている時が1番笑っていられるんだ。
「サトルさん、かっこいい」
お客さんにさんざん甘えて、さんざん褒めて、さんざん媚を売る。
媚を売ることを、“負け組”だとか、“見苦しい”だとか言う人が居るけど、あたしはそう思わない。
媚を売って自分の地位を上げることは、あたしにとっては“名誉”だ。
諂って自分が周りから尊ばれるなら、それでいい。
むしろ、媚を売るのだって自分の性格のうちだ。媚売ってなにが悪いのかあたしには分からない。
「俺、もう行くよ。また会いに来るからな」
「えー、もう行っちゃうの?」
立ち上がったサトルさんを見上げて、サトルさんを引き止める。
「もう、ぜったいまた来てね」
「あぁ、絶対また来るって」
サトルさんは笑って、あたしの手を引いた。
カウンターで会計を済まして、サトルさんは店の扉を開ける。
「じゃあ、またな」
「気をつけてね。ありがとうございました」
あたしは手を振って、笑顔でサトルさんを見送った。