美容師男子×美麗女子
ミュールから覗く、千尋が施してくれたネイルを見た。
いたるところから注がれるライトの光を拾って、ストーンがきらきら輝いている。
「アヤカぁ、休憩入っていいよ」
「はーい」
レジから顔を出した店長が、あたしに声をかける。
「アヤカ、なんかいつもと違うな」
「え、違う?何が?」
「うーん、もっと明るくなったような」
「褒め言葉として受け取っておく。ありがとう」
店長が「敬語を使え」としかめっ面になるけど、あたしは笑ってそのまま控え室に引っ込んだ。
控え室に用意されている椅子に座って、あたしは溜め息を漏らした。
疲れた。
ずっと笑顔をキープしてるから、顔の神経が攣りそうだ。笑顔も楽じゃない。
可愛い声色も、上目遣いも全部体に悪い気がする。
机に突っ伏して、火照った頬を机の冷たさで冷やす。
店長によるとあたしは明るくなったみたいだ。
別に、全然あたしは明るくなんてなってないんだけど。むしろ心の方はだんだん暗くなってきてるんだけど。
だけど、その“明るさ”で仕事がうまくいくならあたしはそれでいい。
この仕事は、あたしに向いている。
これはあたしの美質だと思うくらい。
水を飲んで、あたしは立ち上がった。