美容師男子×美麗女子
約束。
あたしは、1年前に約束をした。
あたしが水商売のバイトをすることの条件を、両親が決めたんだ。
ちゃんと毎日学校に行って、順位は真ん中より上、ちゃんと卒業すること。
それが、あたしへの約束。
高校に上がって、あたしは両親に泣いて懇願した。
最初は断固拒否だったお父さんも、今では渋々認めてくれている。
乗り気ではなかったお母さんも、今では応援までしてくれている。
だから、あたしはそんな優しさに答えないといけないんだ。
ちゃんと勉強して、いい成績をとって、ちゃんと将来働けるように高校卒業する。
だから、卒業したらすぐに貯めたお金で家を出るんだ。
夫婦になる春樹くんとお姉ちゃんは見たくもない。
だから、2人が見えないような遠い所で暮らす。早く、逃げたいんだ。
スネアドラムの適度なビート、いつも単調にリズムを作っているハイハット、主張する為にあるシンバル、飾り物のタム・タム。
ピアノとドラムだけのジャズを耳に流しながら、あたしは“drip”の単語を繰り返す。
中学校のときに、球技大会が嫌で腹痛を理由に保健室でサボった。
そのときの変態教師はあたしの鎖骨にキスをしながら、“可哀想だ”と言った。
『おまえは自分自身が無いんだねぇ』
絡まる息と、粘着物が触る感触を覚えている。
あたしは、自分自身が無いって言うの?
最後に、聞いておけばよかったかな。