美容師男子×美麗女子




あたしの足は玄関で止まった。


あたしの絶望の、28,5センチが目に入ったんだ。


どうしよう、どうしよう。すっかり忘れてたんだ。


春樹くんが、居るんだ。


「おー、千咲?」


ガチャリとリビングの扉が開く。

中から出てきたのはやっぱり春樹くんだった。


「た、ただいま・・・・・」

「美咲たちは?」

「なんか、参加したいイベントが21時開始で、遅れるらしい・・・・」

「ふうん」


ブーツを脱いで、ひたりと廊下に足をつく。

ずるずると紙袋を引きずって、リビングに入った。


「今日、仕事は?」

「あったけど。家に誰も居ないから驚いた」

「お父さん、今日出張なんだって」

「あぁ、だからおばさんも居ないのか」


普通な会話をして、あたしは何とかその場を切り抜けようと思った。

じゃあ、とだけ返事をして、あたしはすぐに自分の部屋に逃げ込む。


真っ暗の部屋の中に入って、電気をつけた。

紙袋を足元に落とす。

あたしは思わずしゃがみ込んでしまった。


どうしよう。もう、部屋から出られない。と言うか、出たくない。

好きなはずの春樹くんに会っていいのか。だって、第一春樹くんはお姉ちゃんのものなのに。

つい、気が抜けて“好き”なんて言ってしまったらどうしよう。



< 73 / 210 >

この作品をシェア

pagetop