美容師男子×美麗女子
あたしの足は玄関で止まった。
あたしの絶望の、28,5センチが目に入ったんだ。
どうしよう、どうしよう。すっかり忘れてたんだ。
春樹くんが、居るんだ。
「おー、千咲?」
ガチャリとリビングの扉が開く。
中から出てきたのはやっぱり春樹くんだった。
「た、ただいま・・・・・」
「美咲たちは?」
「なんか、参加したいイベントが21時開始で、遅れるらしい・・・・」
「ふうん」
ブーツを脱いで、ひたりと廊下に足をつく。
ずるずると紙袋を引きずって、リビングに入った。
「今日、仕事は?」
「あったけど。家に誰も居ないから驚いた」
「お父さん、今日出張なんだって」
「あぁ、だからおばさんも居ないのか」
普通な会話をして、あたしは何とかその場を切り抜けようと思った。
じゃあ、とだけ返事をして、あたしはすぐに自分の部屋に逃げ込む。
真っ暗の部屋の中に入って、電気をつけた。
紙袋を足元に落とす。
あたしは思わずしゃがみ込んでしまった。
どうしよう。もう、部屋から出られない。と言うか、出たくない。
好きなはずの春樹くんに会っていいのか。だって、第一春樹くんはお姉ちゃんのものなのに。
つい、気が抜けて“好き”なんて言ってしまったらどうしよう。