美容師男子×美麗女子
「あたし、好きなんだ」
「・・・・・・・は?」
春樹くんは壁に寄りかかって、あたしをゆっくり見る。
太い首に走る筋に見とれてしまった。
だけどあたしは拳を握って、まっすぐ春樹くんを見る。
「春樹くんのこと、大好きなんだ」
できるだけ精一杯、いまの体力であるかぎり、笑って見せた。
春樹くんは笑わなかった。
「・・・・・嘘」
春樹くんはあたしの肩を掴んで、目の色を伺うようにして覗いた。
「だってお前、嘘しかつかないだろ」
「本当よ」
本当に。
本当にあたしはあなたのことが大好きなんだ。
「春樹くんと仲良くしてるお姉ちゃんを見てると、自分が自分じゃ居られないようだった」
嫉妬だってしたの。苦しいぐらい、妬いていた。
あたしはそんなみっともないこと言わないけど。
だって、あたしは“千咲”だ。
“美咲”は美しく咲くけど、あたしは千に咲くんだ。
辺りをあたし色に染めるような。
あたししか見えなくなるくらい、一杯咲くんだ。
だから、だから大丈夫だ。
名前負けするから嫌だと思ってたけど、今はそうとは思わない。
今なら、言える。