美容師男子×美麗女子
千尋の心臓の音が聞こえる。
落ち着くその音に耳を向けて、筋肉も肉もない背中に腕を回した。
「・・・・・・・泣かないんじゃなかったけ?」
「泣かないとは言ってないから」
子供をあやすみたいに、千尋はあたしの頭を撫でた。
子ども扱いしないで、って言おうと思ったけど、心地良かったからいい。
失恋したんだ。
泣きすぎて頭がこんがらがってたけど、あたし、失恋したんだ。
もし、春樹くんを好きになるのがもう少し早くて、もう少し素直になれていたら。
あたしは変われてたのかな。
千尋が部屋の電気を消した。
時計をちらりと見ると、もう夜中になるところだった。
千尋は大きなあくびをして、あたしを見下ろす。
「俺、寝るわ」
あたしを離して、千尋はもたれかかっていたベッドに潜り込んでいく。
一瞬、思考がとまった。
「ねぇ、あたしはどこに寝るわけ」
「・・・・どっかで寝てたら」
「どっかって・・・・・」
千尋はごろんと寝返りをして、何事も無かったかのように寝始める。
信じられない。
この男は空気が読めないのか。
あたしは何も考えないで、千尋の布団に潜った。
千尋を壁側に押しやって、あたしはその隣に寝転んだ。
暗闇の中でも、千尋が不服そうな顔をしていることがわかる。
だけどあたしは気にしないで、千尋に「おやすみ」だけ言って、目を閉じた。
千尋の甘い匂いがすぐにあたしを眠りに誘った。