美容師男子×美麗女子
「千尋は大学とか行くの?」
「あー、美容専門学校に行くけど」
「専門学校ねー」
千尋はあたしの足元に膝をつく。
真剣な目つきであたしの顔を覗き込んで、右手をあたしの右瞼に近づけた。
千尋の温い手があたしの頬に触れる。
そこであたしは目を閉じた。
睫毛のぎりぎりの部分に、冷たい感触がする。
目頭から目尻に一直線に引かれて、千尋の「目開けて」の声で目を開けた。
「割といいんじゃね?」
「うん、割とね」
手鏡を持って、右瞼を覗き込む。
さっきのラインよりは、上達してるかも。
「千尋はさ、すぐに一直線で引こうとするから失敗するんだよ」
「そっちのほうが真っ直ぐ引けるだろ」
「あたしはちまちま引いていく派」
「安全だけどな」
ふー、と千尋は溜め息をついた。
よっぽど神経を使う仕事なんだろうか。
「専門学校行くじゃん?多分なー、学校でもメイク指導があるんだ。俺、メイクはまだ練習不足なんだよ」
「まぁ、練習できないからね」
「マネキン高いし」
千尋は左手に持ちかえると、「目、閉じて」とだけ言った。