美容師男子×美麗女子
胸元に千尋の息がかかる。
座っているあたしの膝に、千尋の体が当たる。
これがもし営業だとしたら、きっと千尋は近すぎだとお客さんに怒られるだろう。
「左手で書くの、すっげぇ難しい」
「うん、たしかにひどい」
鏡を覗き込んで、目を確認する。
ラインががたがたしてて、見れたものじゃなかった。
千尋はその場に座り込む。
このメイクの手伝い、あたしはけっこう好きだ。
千尋があたしにひざまずいてくれて、あたしだけの従順な下僕みたいで気分がいい。
だから、悪くない。
「・・・・・あんまりこすらないでよ。皮膚が持っていかれる」
「そんな簡単に皮膚は剥がれねぇよ」
千尋との距離が近い。
鼻と鼻がぶつかるんじゃないかってくらい。
きっと千尋は、集中しすぎて気付いてない。
「千尋がお店に出させてもらえない理由、分かった」
「・・・・・なんだよ」
「秘密」
千尋は1つのことに熱中しすぎて、他が何も見えなくなるところが問題なんだ。
“気を回せないタイプ”って言葉がぴったりだ。
千尋らしいけど。