美容師男子×美麗女子
「はい、手」
「ん」
千尋が隣に座って、あたしに手の平を見せる。
どっちの手を出そうか迷ったけど、とりあえず左手を出した。
「おお、新鮮」
千尋はあたしの親指を掴むと、ゆっくりと赤色を伸ばしていった。
いつもはプラスチックに練習しているから、生身に練習するのは新鮮なんだと前に千尋が言っていた。
伏せ目の千尋の睫毛をじっと見た。
「千尋、睫毛長い」
「おー」
何を言っても、千尋は集中しすぎて構ってはくれない。
こんな美容師、たしかに嫌だ。
何をいっても上の空すぎる美容師なんて、見たこと無い。
まぁ、いいか。これはこれで千尋のいいところだ。
空いた手で千尋の癖毛を触る。
指に巻きつけて、引っ張ったりすると千尋は怒るけど、あとは何も言わない。
そうしているうちに、千尋はあっという間にネイルを完成させた。
「逆フレンチ」
「おー、細かい」
爪のラインに合わせてストーンが並べられていて、ムラがない綺麗な赤が爪を染めている。
さすが、千尋。あたしが少し褒めてあげると、素直に千尋は嬉しそうに笑った。
かわいいな、こいつ。子供みたいで。
爪を乾かしながら、寝そべる千尋を見てあたしはそう思った。