美容師男子×美麗女子
お店でいつも見栄を張っているユミに、今晩このネイルを自慢してやろう。
高校生がやったんだよって。ネイルに数万もかけてるユミと、どっちが綺麗か見せてあげたい。
「千咲」
「なに」
「今更だけど、好きな色は?」
千尋はあたしを見上げて、そう言った。
あたしは爪に視線を落とす。
不気味に光る赤があたしの視界を染めた。
黒。
「赤」
「あ、そう。ならよかった」
「クリスマスっぽいしね」
あたしは笑って見せた。
千尋と線を引くために。
千尋と居たら、楽しい。
だけど、あたしには千尋との距離が近付きすぎる。
あたしは自分を円で囲って、その中には他の人は入らないようにしている。
だって、今の“あたし”を乱されるのは嫌だ。
お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、春樹くんも、千尋だって。
自分より大切な誰かを作りたくないし、作ろうと思ったことも無い。
それを失ったら傷付くのはあたしだ。そんなのは、嫌だ。
だから、千尋とも近すぎず遠すぎずの線を引きたい。
千尋の癖毛を触りながら、あたしは立った。
そろそろ帰らないと、仕事用メイクができない。
千尋に挨拶だけして、部屋を出た。