仮からはじまる
第一章
1
あたし、御崎 唯(みさき ゆい)
高校一年生の16歳。
人と接するのは苦手。
集団でつるむのは得意じゃない。
ひとりの方が気楽だし、自由だし。
だから、ひとりでいることが多くて。
でも、それを嫌だと思ったことはないの。
あたしはとっても楽しいわ。
そんな高校生活。
ああ、今日もまたいつもと同じ、この光景。
校門から駐輪場までは、上り坂。
でも、駐輪場が見えないくらい、坂の途中で人垣ができてて。
思うように前に進めない。
登校するときは、いつもこう。
この人垣全員の視線の先には、ふたりの人物。
結城 真一(ゆうき しんいち)
整った顔立ちで、女の子たちみんなに騒がれてる。
でも、あたしは苦手…。
つり目で、常に不機嫌そうな表情。
眉間にしわとかあるし。
話しかけるな近寄るなオーラで、威嚇されてるような気がするし。
睨まれてるみたいで、顔が怖いのよ。
クールな俺様、なんて言われてて。
違うクラスだからよく知らないけど。
もうひとりの人物は
平野 篤(ひらの あつし)
結城真一とは正反対。
いつもにこにこ笑ってることが多くて。
人を睨まないだけ、ましかしら。
前に王子様って言われてるの聞いたことあるわ。
それくらい、きれいで優しい顔してるの。
同じクラスだけど、話したことないからよく知らない。
結局、あたしはふたりのこと、よく知らないのよね。
でも…。
いつも女の子たちが話す声が聞こえるの。
騒ぐ女の子たちの話題の中心は、いつもこのふたりのこと。
興味はなくても、声が大きいから、聞こえちゃうのよ。
ふたりとも、とっても成績優秀みたい。
それがまた騒がれる原因だと思うんだけど。
でも、とても品行方正とは言えないのよね。
明るい髪の色と、耳にはたくさんのピアス。
着崩した制服で、いかにもガラが悪そう。
特に、結城真一はあの怖そうな見た目もあるし。
ああ、でも、これも騒がれる原因みたい。
顔がよくて、頭もよくて。
ちょっと悪っぽい雰囲気がすてき、なんだって。
女の子たちが言うには。
人の顔と名前を覚えるのが苦手なあたしでも知ってる、有名なふたり。
この学校の人たち、ほとんどみんな、このふたりのこと知ってるんじゃないかしら。
多分そのくらい有名なの。
そんなわけで。
今日も人垣ができてて。
ふたりとも、ちょうど駐輪場で自転車を止めてるところみたい。
でも、結城真一の近寄りがたい雰囲気のせいで、みんな遠巻きに眺めてるだけ。
それが邪魔なんだけど…。
朝からきゃあきゃあ騒ぐ女の子たち。
今日もかっこいいー!!
朝から会えて嬉しいー!!
だって。
小声で話してるつもりかもしれないけど、聞こえてるわ。
本人たちも楽しくないでしょ、こんな状態。
ざわざわ騒がれて、嫌になると思うけど。
ほら、結城真一の眉間のしわ、さらに深くなってない?
ますます怖い顔…。
あなたたちが騒ぐからでしょ?
え、それがかっこいい?
ああ、あたしには理解できないわ…。
人垣を掻き分け掻き分け、あたしは駐輪場に近付く。
このまま、この人垣を眺めてるなんて無意味だわ。
すれ違う人たちに何か言われた気がするけど。
あたし別にこのふたりに近付きたいわけじゃないの。
ただ自転車を止めたいだけ。
入り口の近くにささっと止めて。
さっさと教室に行くだけよ。
でも…。
うちの学校の駐輪場、前輪を溝にはめて固定するタイプなんだけど、なぜか今日に限って入り口の近くが空いてない…。
奥の方にはあのふたり。
このまま溝が見つからず進んだら、あのふたりに近付いちゃう…。
それは避けたいけど。
と思ってたら。
とうとう対面まで来ちゃって。
仕方ないわ、ここに止めなきゃ。
がちゃががちゃと鍵を閉めてたら。
突然
「おはよー」
声が聞こえた。
思わず顔を上げると。
にこにこ笑いながらこっちを見てる平野篤。
目つきの悪い結城真一。
ん?
あれ?
もしかして、平野篤があたしに言ったの?
左右を見ても、遠巻きに眺めてる人たちがいるだけ。
近くには誰もいない。
あ、もしかして。
あたしのうしろに人がいて、その人に言ったの?
でも、うしろを見ても、やっぱり誰もいなくて。
あれ?
やっぱり、あたしに言ったの?
相変わらず、にこにこ笑う平野篤。
目つきの悪い結城真一。
今となっては言われた自信がないわ。
空耳かも?
でも、無視することになっても感じ悪いし。
あたしは控えめに
「おはよう…」
言ったみたの。
「あ、挨拶してくれたねー。おはよー」
はあ?
何それ?
挨拶してくれた?
平野篤の、間延びしたのんびり口調。
この人、こんなふうに話すの?
驚いて何も言えないあたしに手を振りながら、平野篤は歩き出す。
何も言わないでじっとこっちを見てる結城真一。
ふと目があうと、鼻でふんと笑われた。
ちょっと!!
なによ、むかつくわね。
ふたりがいなくなって、急に混みだした駐輪場。
あたしを指差しながら何かを話す女の子たちもいたけど。
あたしはそれどころじゃないくらい、結城真一にむかついちゃって。
鼻で笑うって、失礼でしょー!!
高校一年生の16歳。
人と接するのは苦手。
集団でつるむのは得意じゃない。
ひとりの方が気楽だし、自由だし。
だから、ひとりでいることが多くて。
でも、それを嫌だと思ったことはないの。
あたしはとっても楽しいわ。
そんな高校生活。
ああ、今日もまたいつもと同じ、この光景。
校門から駐輪場までは、上り坂。
でも、駐輪場が見えないくらい、坂の途中で人垣ができてて。
思うように前に進めない。
登校するときは、いつもこう。
この人垣全員の視線の先には、ふたりの人物。
結城 真一(ゆうき しんいち)
整った顔立ちで、女の子たちみんなに騒がれてる。
でも、あたしは苦手…。
つり目で、常に不機嫌そうな表情。
眉間にしわとかあるし。
話しかけるな近寄るなオーラで、威嚇されてるような気がするし。
睨まれてるみたいで、顔が怖いのよ。
クールな俺様、なんて言われてて。
違うクラスだからよく知らないけど。
もうひとりの人物は
平野 篤(ひらの あつし)
結城真一とは正反対。
いつもにこにこ笑ってることが多くて。
人を睨まないだけ、ましかしら。
前に王子様って言われてるの聞いたことあるわ。
それくらい、きれいで優しい顔してるの。
同じクラスだけど、話したことないからよく知らない。
結局、あたしはふたりのこと、よく知らないのよね。
でも…。
いつも女の子たちが話す声が聞こえるの。
騒ぐ女の子たちの話題の中心は、いつもこのふたりのこと。
興味はなくても、声が大きいから、聞こえちゃうのよ。
ふたりとも、とっても成績優秀みたい。
それがまた騒がれる原因だと思うんだけど。
でも、とても品行方正とは言えないのよね。
明るい髪の色と、耳にはたくさんのピアス。
着崩した制服で、いかにもガラが悪そう。
特に、結城真一はあの怖そうな見た目もあるし。
ああ、でも、これも騒がれる原因みたい。
顔がよくて、頭もよくて。
ちょっと悪っぽい雰囲気がすてき、なんだって。
女の子たちが言うには。
人の顔と名前を覚えるのが苦手なあたしでも知ってる、有名なふたり。
この学校の人たち、ほとんどみんな、このふたりのこと知ってるんじゃないかしら。
多分そのくらい有名なの。
そんなわけで。
今日も人垣ができてて。
ふたりとも、ちょうど駐輪場で自転車を止めてるところみたい。
でも、結城真一の近寄りがたい雰囲気のせいで、みんな遠巻きに眺めてるだけ。
それが邪魔なんだけど…。
朝からきゃあきゃあ騒ぐ女の子たち。
今日もかっこいいー!!
朝から会えて嬉しいー!!
だって。
小声で話してるつもりかもしれないけど、聞こえてるわ。
本人たちも楽しくないでしょ、こんな状態。
ざわざわ騒がれて、嫌になると思うけど。
ほら、結城真一の眉間のしわ、さらに深くなってない?
ますます怖い顔…。
あなたたちが騒ぐからでしょ?
え、それがかっこいい?
ああ、あたしには理解できないわ…。
人垣を掻き分け掻き分け、あたしは駐輪場に近付く。
このまま、この人垣を眺めてるなんて無意味だわ。
すれ違う人たちに何か言われた気がするけど。
あたし別にこのふたりに近付きたいわけじゃないの。
ただ自転車を止めたいだけ。
入り口の近くにささっと止めて。
さっさと教室に行くだけよ。
でも…。
うちの学校の駐輪場、前輪を溝にはめて固定するタイプなんだけど、なぜか今日に限って入り口の近くが空いてない…。
奥の方にはあのふたり。
このまま溝が見つからず進んだら、あのふたりに近付いちゃう…。
それは避けたいけど。
と思ってたら。
とうとう対面まで来ちゃって。
仕方ないわ、ここに止めなきゃ。
がちゃががちゃと鍵を閉めてたら。
突然
「おはよー」
声が聞こえた。
思わず顔を上げると。
にこにこ笑いながらこっちを見てる平野篤。
目つきの悪い結城真一。
ん?
あれ?
もしかして、平野篤があたしに言ったの?
左右を見ても、遠巻きに眺めてる人たちがいるだけ。
近くには誰もいない。
あ、もしかして。
あたしのうしろに人がいて、その人に言ったの?
でも、うしろを見ても、やっぱり誰もいなくて。
あれ?
やっぱり、あたしに言ったの?
相変わらず、にこにこ笑う平野篤。
目つきの悪い結城真一。
今となっては言われた自信がないわ。
空耳かも?
でも、無視することになっても感じ悪いし。
あたしは控えめに
「おはよう…」
言ったみたの。
「あ、挨拶してくれたねー。おはよー」
はあ?
何それ?
挨拶してくれた?
平野篤の、間延びしたのんびり口調。
この人、こんなふうに話すの?
驚いて何も言えないあたしに手を振りながら、平野篤は歩き出す。
何も言わないでじっとこっちを見てる結城真一。
ふと目があうと、鼻でふんと笑われた。
ちょっと!!
なによ、むかつくわね。
ふたりがいなくなって、急に混みだした駐輪場。
あたしを指差しながら何かを話す女の子たちもいたけど。
あたしはそれどころじゃないくらい、結城真一にむかついちゃって。
鼻で笑うって、失礼でしょー!!