仮からはじまる

「あ?何だ?」

赤くなった顔を見られたくなくて。
ぷいと顔を背けたあたしを、結城真一は眉間にシワを寄せた不機嫌そうな表情でじろりと睨む。

だからっ!!
顔が怖いのよっ!!

「いえ、何でもないです…」

顔が怖い人に、顔が怖いです、とはとても言えないわ…。
笑ったり睨んだり、結城真一の心理状態って一体どうなってるのかしら…。

「おまえのことは、今日から監視させてもらうからな」

は、はぁああー!?
監視?
何それ突然、どういう意味?
おかしいでしょ監視なんてっ!!

ちょっと!!
どういうつもりなの!?
って言ってやりたいのに。
結城真一の顔が怖くてとても言えないわ…。

「あ、あの、監視、って?」

恐る恐る聞いてみる。
ああ、あきらかにおかしいのは結城真一の方なのに。
どうしてあたしが怯えながら聞かなきゃならないのよっ!!

「今日のことをぺらぺら話されたら困るからな。誰にも言わないように、監視させてもらう」
「ああ、それなら大丈夫ですから。誰にも言いませんから」
「信用できるかよ」

な、なんですって?
信用できない?
どういう意味よ、それはー!!

「本当に、言わないから、大丈夫よ」

落ち着いて、あたし!!
説得が通じる相手には思えないけど。
ここは納得してもらわないと。

ていうか、今日のことをぺらぺら話されたら。
あたしだって困る。

結城真一は何が困るの?

原付の交通違反が学校にばれるのは避けたいし。
まあ、乗ったのはあたしの意思じゃないけど。
乗ったのは事実だし。

それから…。
暴力沙汰に巻き込まれたのははじめてだわ。

ん?
これって、あたしを守るために、けんかしてくれたことになるの?
だからって正当化されるとは思わないけど。

でも、殴る蹴るの現場を見たのははじめて。

平野篤は笑顔で人を殴ってたわね?
本当に怖いのはどっちよ!!

ていうか、そもそもスーパーの駐車場で何してたの?
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