仮からはじまる

「助けたのが不満だったのか?」

じりじりと寄ってくる結城真一の怖い顔…。

「それとも助けない方がよかったのか?」

あのまま助けてもらわなかったら…。
今頃どうなってたのか…。

考えると恐ろしいわ。
思い出すと寒気がして、思わず身震いする。

「いえ、助けていただいて。ありがとうございました…」

そう思ってるのは本当。
感謝してるのも本当よ。

「ふん」

結城真一には鼻で笑われたけどね。

でもっ!!
だからって!!
付き合うのとは話が別だわっ!!

「ねえ、唯ちゃん?」

それまで黙って話を聞いていた平野篤が、諭すようにあたしを呼ぶ。
困ったような表情で見つめられて、思わず怯んじゃう。

「どうして?シンと付き合うの、嫌なの?」

嫌に決まってるじゃないっ!!
こんな顔の怖い、しかもヤンキーよ!?
いきなり彼女って何それ!!
付き合うって、す、好きな人と付き合うものでしょう?

ほんとは大声で嫌と叫びたいけど…。
さすがに本人を目の前にしてそれはできないわ。

ちらっと結城真一を見ても、相変わらずの怖い顔。
まずはその眉間のしわをやめてよね!!

「ねえ、唯ちゃん?」

何も言わないあたしをじっと見つめる平野篤。
その柔和な態度には従わないわよ?

「きゅ、急に言われても困るから…」

やっぱりうまく話せない。

「か、監視とか、そんなことされなくても、人に話したりしないわ」

っていうか言う人もいないしね。
あたし学校で友だちとか別に話す人いないし。
友だちいないとか自分で言っちゃって悲しくならなくもないけど…。

「シンは唯ちゃんが心配なんだよ」

は、はぁあああー!?
何で結城真一が…
あっ、あたしの心配を?

「おいっ」

動揺したように平野篤に向き直る結城真一…
どうして結城真一が動揺するのよ?

「さっきみたいな集団に襲われそうになったら、また怖いでしょ?」

た、確かに怖いけど…。

あの集団の中で、このふたりとあたしは仲間だと思われてて。
もしかしたら、また何かあるかもしれないわ…。
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