仮からはじまる
第四章

月曜日に登校した学校は、いつもと全く変わった様子も無くて。
いつも通りの朝の登校風景。

いろいろ考えすぎちゃって…。
もしかして、あの土曜日の出来事は夢だったんじゃないか…。
とも思ったりして。

でも、携帯の電話帳には結城真一の名前。
やっぱり夢じゃなかったのね。
できることならなるべく会いたくない。
と思ってたのに。

だけど、いきなり昇降口で会っちゃって。
視線を感じてふと顔をあげると。
そこには結城真一と平野篤の姿が!!

「よお」
「おはよー」

結城真一に意地悪そうに笑いながら言われて。
平野篤の間延びしたのんびり口調が続く。

もう、その顔やめてよ。
その笑顔が逆に怖いわ。
かといって怖い顔も嫌だけど。
ああ、やっぱり夢じゃなかったのね…。

ざわざわと人の視線を集めるふたりの傍は居心地が悪い。
いつもこんなふうに見られてるの?
注目される気分は楽しいものじゃないわ。

ふたりとも、視線なんて特に気にもしてない様子で上靴に履き替えてるけど。
やっぱり楽しくないわよね?

なんて思ってたら。
上靴に履き替えるあたしを待ってたみたいで。
なぜか三人で並んで歩き出す。
先に行っててくれて良かったのに!!

でも…。
歩き始めてしまったからには仕方ない。
今さら急いでるって言うのも変だし。
遠巻きに眺める人たちも邪魔だし…。
教室までの我慢だと思えばいいか。

「いつもこんなに注目されてるの?疲れちゃうわね?」

聞いたら結城真一は少し驚いた表情を見せたけど

「ふん、別に意味なんてねーよ」

やっぱり特に気にしてないみたい。
慣れてるのかしら?

「おまえ、昨日は何してたんだ?」
「昨日?昨日はピアノ教室へ行ってたわ」
「ピアノ?おまえ、ピアノ習ってるのか?」
「そうよ、土曜日もピアノ教室の帰りだったの。日曜日は自由に使っていい練習室があるんだけど、ピアノを練習したり、フルートを習ってる方と合奏したり、とっても楽しかったわ」

真剣な表情であたしを見る結城真一に気付いて、急に恥ずかしくなる。

あ、あたしったら一方的に話しすぎたかしら。
楽しかった昨日を思い出してつい余計なことまで…。
結城真一にしたら、あたしの昨日なんて別に興味ないと思うのに…。
聞きたくないわよね、こんな話。

「てことは、あいつらに会ったりしなかったのか?」

え?
もしかして、心配してくれてたの?

思いがけず優しく聞かれて驚いたけど。
その気遣いがとっても嬉しかった。
気にかけてくれてたのね。
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